腫瘍研究の利益相反に関するJSGO指針

指針

序  文

公益社団法人日本婦人科腫瘍学会(JSGO)の学術集会・刊行物などで発表される研究においては,がん患者を対象とした治療法の標準化のための臨床研究や,新規の医薬品・医療機器・技術を用いた臨床研究,および,臨床への橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を含む基礎医学研究などがあり,産学連携による研究・開発が行われる場合が少なくない。それらの成果は,発表,教育,啓発などを通じて臨床の現場に還元されることから,産学連携によるがん研究の必要性と重要性は日ごとに高まるばかりである。
産学連携によるがん研究などの活動には,学術的・倫理的責任を果たすことによって得られる成果の社会への還元(公的利益)だけではなく,産学連携に伴い取得する金銭・地位・利権など(私的利益)が発生する場合がある。これら2つの利益が研究者個人の中に生じる状態を利益相反(conflict of interest:COI)と呼ぶ。今日における人の社会的活動において,利益相反状態が生じることは避けられないものであり,特定の活動に関しては法的規制がかけられている。

しかし,法的規制の枠外にある行為にも,利益相反状態が発生し,利益相反状態が深刻な場合は,研究の方法,データの解析,結果の解釈が歪められるおそれが生じる。逆に,適切な研究成果であるにもかかわらず,公正な評価がなされないことも起こるであろう。さらに,これらの研究成果をもとに教育,啓発活動が行われるが,その際にも利益相反による疑義が生じないよう適切に管理されなくてはならない。
日本癌治療学会(JSCO)・日本臨床腫瘍学会(JSMO)による先のがん研究の利益相反に関する指針を基本として一部改変した学会の事業・活動における利益相反に関する指針が2019年2月にJSCO/JSMO合同作成部会により開示された。
JSGOの事業実施においてもJSCO/JSMOと同様に、JSGOの事業・活動に参画する者に対して利益相反に関する指針を明確に示し,JSGOの全ての事業・活動の公正さを確保することが求められる。

1. 指針策定の目的

すでに,「ヘルシンキ宣言」や本邦で定められた「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」,「臨床研究法」において述べられているように,臨床研究は,他の学術分野の研究と大きく異なり,研究対象が人間であることから,被験者の人権・生命を守り,安全に実施することに格別な配慮が求められる。

創薬や医療機器などの開発は必ず基礎医学研究を経て行われ,基礎医学研究のデータは,引き続いて臨床研究を行うための判断材料となり,また,医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に準拠した審査の基礎となることなどから,基礎医学研究の信頼性の確保もまた,人間の生命に関わる重要な問題である。

さらに,がん医療の実践において,これらの研究成果の発表,それらに基づいて行われる教育活動,ガイドライン策定,政府に対する提言等は社会的に大きな影響力をもつものであり,これらを含めてJSGOの全ての事業・活動は利益相反による疑義が生じないよう適切に管理されなくてはならない。
JSCO/JSMOと同様にJSGOは,その事業・活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み,「学会の事業・活動の利益相反に関する指針」(以下,本指針と略す)を策定する。その目的は,JSGOが会員および学会自体の利益相反状態を適切に管理することにより,研究結果の発表や教育,啓発およびその他の活動を,公正性と公明性を維持した状態で適正に推進させ,がんの予防・診断・治療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある。

本指針の核心は,JSGO会員に対して利益相反についての基本的な考えを示し,JSGOが行う事業・活動に参画する場合,利益相反状態の深刻化や,それに伴う研究不正,あるいは社会からの疑念を未然に防止することにある。
JSGO会員が,以下に定める本指針を遵守することを求める。

2. 対象者

利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し,本指針が適用される。

  1. JSGO会員
  2. JSGOの従業員
  3. JSGOで発表する者
  4. JSGOの理事会、委員会、作業部会に出席する者
  5. その他のJSGOの事業・活動に参画する者

3. 対象となる活動

JSGOが関わるすべての事業・活動に対して,本指針を適用する。JSGO会員に対する教育や,市民に対して公開講座,ガイドライン等の策定,政府機関などに対する提言などは,社会的影響力が強いことから,その関係者には特段のCOI管理が求められる。

  1. 研究成果等の発表
    1. ① JSGOが主催する学術集会などでの発表
    2. ② JSGO発刊の学術雑誌・機関誌などでの発表
    3. ③ SGOが関係する企業や営利団体が主催・共催する講演会,ランチョンセミナー,イブニングセミナーなどでの発表
  2. 学術集会(年次総会含む)などの開催
  3. 学会機関誌,学術図書の発行
  4. 診療ガイドラインやマニュアルなどの策定
  5. 研究および調査の実施
  6. 研究の奨励および研究業績の表彰
  7. 専門医,指導医および認定施設の認定
  8. 教育セミナー,市民公開講座などの教育啓発広報活動
  9. 政府機関などに対して提言や要望書の提出
  10. 臨時に設置される調査委員会,諮問委員会などでの作業
  11. その他目的を達成するために必要な事業・活動

なお,研究活動における利益相反管理の責任は,研究の実施主体にあるが,JSGO会員は本指針を参考にし,適切に利益相反を自主的に管理する。また,JSGOのすべての会員は,JSGOの事業活動と関係のない学術活動(企業主催・共催などを問わず)においても,本指針に基づき,COI状態を自主的に開示しなければならない。

4. 開示・公開すべき事項

対象者は,自身における以下の(1)〜(10)の事項で,別に定める期間内において基準を超える場合には,利益相反の状況を所定の様式に従い,学会発表等の必要に応じて,自己申告によって正確な状況を開示する義務を負うものとする。また,対象者は,その生計を一にする親族等など影響を与える可能性にある者における以下の(1)〜(3)に該当する事項で,別に定める期間内において基準を超える場合には,その正確な状況を学会に申告する義務を負うものとする。なお,自己申告および申告された内容については,申告者本人が責任を持ち,COI状況が変化した場合には速やかに追加報告するものとする。具体的な開示・公開方法は,対象活動に応じて別途定める。

  1. 企業や営利を目的とした団体の職員,顧問職等の兼業
  2. 株の保有
  3. 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
  4. 企業や営利を目的とした団体から,会議の出席(発表,助言など)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当,講演料など
  5. 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
  6. 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(共同研究,受託研究,治験等)
  7. 訴訟等に際して企業や営利を目的とした団体から支払われる顧問料及び謝礼
  8. 企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄附金
  9. 企業や営利を目的とした団体からの研究員等の受け入れ
  10. 企業や営利を目的とした団体が提供する寄附講座
  11. その他の報酬(研究とは直接無関係な,旅行,贈答品など)

なお,企業や営利を目的とした団体から,機関の長等を経由した形で,間接的に研究費や寄附金が個人の所属する部局(講座,分野)あるいは研究室へ配分される場合にも,資金提供者である企業名を申告する。非営利法人(例,NPO)や公益法人(例,社団,財団)等からの資金援助(受託研究費,研究助成費)を受けて研究者主導臨床研究を実施する場合にも,当該法人への資金提供者である企業名もCOI申告書に記載する。

また,ガイドライン策定に参画するものは,日本医学会が策定した「診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス」に準じてCOIを申告するなど,必要に応じて申告内容が追加されることがある。

5.利益相反状態の回避

  1. 全ての対象者が回避すべきこと
    研究の結果の公表は,純粋に科学的な判断,あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。JSGO会員は,研究の結果を会議・論文などで発表する,あるいは発表しないという決定や,研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について,その研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず,また影響を避けられないような契約は回避すべきである。企業の影響を避けられないような契約を受け入れる場合,結果公表時に資金提供者の役割と関与の詳細を記載し公開しなければならない。
    特に,産学連携にて人間を対象とした介入研究を実施する場合,以下については回避すべきである。
    1. 臨床研究に参加する研究対象者の仲介や紹介に係る契約外報奨金の取得
    2. ある特定期間内での症例集積に対する契約外報奨金の取得
    3. 当該研究に関係のない学会参加に対する資金提供者・企業からの旅費・宿泊費の受領
    4. 特定の研究結果に対する契約外成果報酬の取得
  2. がん臨床研究の研究責任者が回避すべきこと
    臨床研究(臨床試験,治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ研究責任者(多施設臨床研究における各施設の責任医師は該当しない)は,次の利益相反状態にないものが選定されるべきであり,また選定後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。
    1. 当該研究の資金提供者・企業の株式保有や役員等への就任
    2. 研究課題の医薬品,治療法,検査法などに関する特許権ならびに特許料の取得
    3. 当該研究にかかる時間や労力に対する正当な報酬以外の金銭や贈答品の受領
    4. 研究機関へ派遣された企業所属の派遣研究者,非常勤講師および社会人大学院生が当該研究に参加する場合,実施計画書や結果の発表において当該企業名を隠ぺいするなどの不適切な行為
    5. 当該研究データの集計,保管,統計解析,解釈,結論に関して,資金提供者・企業が影響力の行使を可能とする状況
    6. 研究結果の学会発表や論文発表の決定に関して,資金提供者・利害関係のある企業が影響力の行使を可能とする契約の締結
      但し,(1)・(2)に該当する研究者であっても,当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり,かつ当該臨床研究が極めて重要な意義をもつような場合には,研究責任者に就任することは可能とする。その場合には,COI管理のための対処方法を含めて,社会に対して説明責任を果たし,結果公表時に資金提供者の役割と関与の詳細を論文などに記載し公開しなければならない。

6.実施方法

  1. 会員の役割
    会員は研究成果を学術集会等で発表する場合,当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示しなければならない。開示については所定の書式にて行なう。JSGOの行う事業・活動に参画する場合にもCOIを開示する。本指針に反する事態が生じた場合には,利益相反を管轄する利益相反委員会にて審議し、理事会に上申する。また,本指針に反するとの指摘がなされ,改善措置が決定された場合には,当該会員はその趣旨を理解し全面的に協力しなければならない。
  2. 役員等の責務
    JSGOの役員(理事長・副理事長・理事・監事)、学術集会会長、次期学術集会会長、次次期学術集会会長、各種委員会委員長、各種ワーキンググループ委員長、社会保険委員、倫理委員、ガイドライン委員、利益相反委員、編集委員(以下、役員等と略す)は,学会に関わる事業・活動に対して重要な役割と責務を担っており,就任(再任の場合を含む)する時点でCOI状態について,所定の書式にしたがいCOI自己申告書を提出しなければならない。提出されたCOI自己申告書からCOI状態を審査し,関係する委員会の委員長・委員などの選考に反映させる。理事会は,役員等がJSGOの事業・活動を遂行する上で,深刻な利益相反状態が生じた場合,或いは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合,利益相反委員会に諮問し,答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
    学術集会長は、JSGO学術集会で研究成果が発表される場合,その実施が本指針に沿ったものであることを確認し,本指針に反する演題については発表を差し止めることができる。この場合には,速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお,これらの対処については利益相反委員会で審議し,答申に基づいて理事会で承認後に実施する。
    編集委員長は、研究成果がJSGO刊行物などで発表される場合,その実施が本指針に沿ったものであることを確認し,本指針に反する場合には掲載を差し止めることができる。この場合には,速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。また、当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は,当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる。なお,これらの対処については利益相反委員会で審議の上,答申に基づいて理事会承認後に実施する。
    JSGOの委員長・委員・職員,事業・活動に参画する者は,それぞれが関与する事業・活動に関して,その実施が本指針に沿ったものであることを確認し,本指針に反する事態が生じた場合には,速やかに利益相反委員会で審議し,答申に基づいて理事会承認後に対処する。
  3. 不服の申立
    前記1)ないし2)号により措置を受けた者は,JSGOに対し,不服申立をすることができる。JSGOはこれを受理した場合,速やかに利益相反委員会において再審議し,理事会の協議を経て,その結果を不服申立者に通知する。

7.指針違反者への措置と説明責任

  1. 指針違反者への措置
    JSGO理事会は,それぞれの学会が別に定める規程により本指針に違反する行為に関して審議する権限を有し,利益相反委員会での審議の結果,重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には,その遵守不履行の程度に応じて一定期間,次の措置を取ることができる。
    1. ① JSGOが開催するすべての学術集会等での発表の禁止
    2. ② JSGOの刊行物への論文掲載の禁止
    3. ③ JSGOの学術集会の会長就任の禁止,会長予定者の取り消し,会長の解任
    4. ④ JSGOの理事会,委員会,作業部会委員の就任および事業・活動への参画の禁止や解任
    5. ⑤ JSGOの代議員の就任の禁止や解任
    6. ⑥ JSGO会員の除名,あるいは会員になることの禁止
  2. 不服の申立
    被措置者は,JSGOに対し,不服申立をすることができる。JSGOがこれを受理したときは,利益相反委員会において再審理を行い,理事会の協議を経て,その結果を被措置者に通知する。
  3. 説明責任
    JSGOは,本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合,JSGOの利益相反委員会および理事会の協議を経て,社会への説明責任を果たす。

8.COI情報の取り扱い

  1. COI情報の管理について
    自己申告されたCOI情報は,重要な個人情報を含む情報であることから慎重な取り扱いが必要であり,機密保持の確保と個人情報保護の観点から,JSGO事務局にて厳格に管理する。
    役員の任期を終了した者,委員委嘱の撤回が確定した者に関するCOI情報の申告内容なども,最終の任期満了,あるいは委員の委嘱撤回の日からある一定の期間,理事長の監督下に当該事務局で厳重に保管する。
    一定期間を経過した申告内容については,理事長の監督下において速やかに削除・廃棄される。ただし,削除・廃棄することが適当でないと理事会が認めた場合には,必要な期間を定めて当該申告者のCOI情報の削除・廃棄を保留できる。
  2. COI情報の利用について
    自己申告されたCOI情報はJSGO理事会および利益相反委員会が随時利用することができる。しかし,利用目的は必要な限度を超えてはならず,また,上記の利用目的に照らし開示が必要とされる者以外の者に対しては開示されない。
  3. COI開示・公開請求への対応
    役員や会員のCOI状態に関する情報は一般(例:マスコミ関係者,市民団体など)からの開示請求があれば,JSGO理事長は開示請求者に対して説明責任を果たさなければならない。妥当と思われる請求理由であれば,JSGO理事長は利益相反委員会に諮問し,理事会の承認後に当該開示請求者へ回答し,個人情報およびプライバシーの保護に関して十分に配慮した上で,必要な範囲の情報を提供することができる。必要な場合は,個人情報の保護のもとに事実関係の調査等を実施することができる。その際に,既存の委員会で対応できないと判断された場合には,外部委員(有識者)を含めた調査委員会を設置することができる。
    また,法的な手段により特定の役員や会員に係るCOI状態の開示請求がなされた場合には,法的見解を踏まえて理事会にて対応方法を決定する。

9.組織COIの管理

JSGOの組織自体も,企業や営利を目的とした団体から寄附をうけるなど,COI状態が生じる場合がある。
JSGOの事業・活動に対して企業や営利を目的とした団体から支払われる助成金,寄附金などは,ホームページなどで公開する。また,JSGOでは,利益相反委員会が、JSGOの組織COIを適切に管理する。

10.細則の制定

JSGOは、本指針を実際に運用するために必要な細則を制定する。

11.施行日および改正方法

本指針は,社会的影響や産学連携に関する法令の改変などから,個々の事例によって一部に変更が必要となることが予想される。利益相反委員会は、理事会・総会の決議を経て、本指針を改正することができる。

附則
本指針は2010年5月1日より施行する。
2017年7月27日改定
2020年7月17日改定

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