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婦人科検診について

はじめに

婦人科検診イコール「子宮頸癌に対する細胞診」と考えるのが一般的です。時代背景により病気の内容や受診者の求める検診精度が変わるため、検診の内容は変わるべきものです。この代表的な例として、乳がん検診があげられます。早期診断により乳房温存手術が可能となり、また抗がん剤治療のみで治ることを受診者が知っている場合には、触診では診断できないレベルの微小がんの診断を期待します。乳がん検診受診者の期待に応えるためには、専門医による問診と触診に加えてマンモグラフィが必須の検診項目になってくるのはこのためでしょう。

婦人科医による子宮頸部細胞診が子宮頸癌の検診にきわめて有用であることは、WHO(世界保健機構)で認定されていますし、子宮頸癌の死亡率減少にも寄与しています。ところが、最近の婦人科検診受診者は子宮頸癌はもちろんのこと、子宮体がん、卵巣がん、さらには性器の感染症まで早期診断できると期待しています。もちろん、費用を無視して検査を積み重ねれば、診断可能であることも多いのですが、健康者を対象とした検診では効率を無視して費用をかけ過ぎるわけには参りません。そこで、2004年の現時点において望ましい検診体制を決める場合には、なにを調べることによりどんな病気がどれぐらいの効率でわかるのかを検診者と受診者が理解していることが大切です。

検診には精度が重要

子宮頸部細胞診では採取法がきわめて重要です。専門医が木製のヘラや小綿棒などでじかに子宮頸部を擦過して細胞を採取する方法に比べて、自己採取法は正診率が低いうえ誤診率が高く、実用にならないことは婦人科医の常識です。しかし現実にはやらないよりましという考えのもとに、年間5万件以上の検診が行われています。精度の悪い検診で誤った結果がでると、それを否定するためにより多くのお金をかけなければなりません。学会は、自己採取法は有害無益なのでやるべきではないと考えています。検診を受けるからには、その内容と精度を十分に知らされていなければなりません。

容易ではない子宮体がんの早期診断

検診でよく話題になるのが、子宮体がんの見逃しです。子宮体がんの診断はpatient's delay とdoctor's delay のため、予想以上に診断の遅れがおきています。不正出血があっても恥かしいとか、そのうち治るという楽観的期待から受診が遅れるのがpatient's delay。一方、doctor's delayは、受診者の訴えに耳を傾けずに子宮体部細胞診をしなかったり、その細胞診の結果から体がんが疑診されているのに子宮内膜組織診をしないため、診断が遅れるというものです。子宮体部細胞診の精度が子宮頸部のそれに比べて低いために早期診断できない場合がありますが、これも広い意味ではdoctor's delayです。この両者により、delayは数年に及ぶこともあります。受診者がこのような不利益をうけないためには、不正出血を甘く考えないで、婦人科医が的確に検診を実行しているか否かについても関心を持つべきでしょう。

良性腫瘍から続発する卵巣がんと突如として発生する卵巣がん

卵巣がんのなかには、良性の腫瘍からがんに変わっていくタイプのものが半分近くある一方、突如としてがんが発生し、まだ卵巣のがん自体は小さいのに、骨盤や腹腔内に急激に拡がるものが少なからずあります。後者のタイプの卵巣がんを検診で早期診断することは、現状では困難と考えられます。表2の二次検診項目の経腟超音波診断、血中腫瘍マーカーの測定を一次検診(表1)に組み込めば、多少とも正診率は改善しますが、費用の増加に見合う成果が少なすぎるのです(卵巣がんになる確率は自動車事故に遭う確率よりも少ない)。ただし、身近な親類に卵巣がんの人がいる場合や、乳がん、子宮体がん、大腸がんなどにかかった人が数人いる場合には、定期的に経腟超音波診断や血中腫瘍マーカーの測定を受けることは有用と言えます。

まとめ

婦人科検診を整備し効率よく運用するためには、1)検診内容は時代背景と共に変わるべきであること、2)一次・二次を含めて、検診の全体像が明示されていること、3)検診が身体に与える負担や費用は、検診の成果に見合うような内容にすべきであること、4)受診者・検診者ともに、検診で判る確率と見逃しの可能性について知っておくことが重要です。

表1.一次検診で何がわかるか

検診項目 わかる病気
専門医による外陰部視診・腟鏡診 外陰・腟の炎症・感染症
子宮頸部擦過細胞診 子宮頸部悪性腫瘍の疑診
(不正出血があれば子宮体部細胞診) 子宮体部悪性腫瘍の疑診
内診 子宮筋腫,卵巣腫瘍の有無

表2.二次検診で何がわかるか

検診項目 わかる病気
外陰・腟の細菌培養 外陰・腟カンジダ症など
子宮頸部コルポ診・ねらい組織診 子宮頸部前がん病変・子宮頸癌
子宮内膜組織診 子宮体部前がん病変・子宮体がん
経腟・経腹超音波診断 子宮筋腫
MRI 子宮肉腫
血中腫瘍マーカーの測定 卵巣腫瘍
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