腫瘍研究の利益相反に関するJSGO指針

指針

序  文

公益社団法人日本婦人科腫瘍学会(JSGO)の学術集会・刊行物などで発表される研究においては、腫瘍患者を対象とした治療法の標準化のための臨床研究や、新規の医薬品・医療機器・技術を用いた臨床・基礎研究が多く、産学連携による研究・開発が行われる場合が少なくない。それらの成果は臨床の現場に還元されることから、産学連携による腫瘍研究の必要性と重要性は日ごとに高まるばかりである。

産学連携による腫瘍研究には、学術的・倫理的責任を果たすことによって得られる成果の社会への還元(公的利益)だけではなく、産学連携に伴い取得する金銭・地位・利権など(私的利益)が発生する場合がある。これら2つの利益が研究者個人の中に生じる状態を利益相反(conflict of interest:COI)と呼ぶ。今日における人の複雑な社会的活動から、利益相反状態が生じることは避けられないものであり、特定の活動に関しては法的規制がかけられている。 しかし、法的規制の枠外にある行為にも、利益相反状態が発生する可能性がある。そして、利益相反状態が深刻な場合は、研究の方法、データの解析、結果の解釈が歪められるおそれが生じる。また、適切な研究成果であるにもかかわらず、公正な評価がなされないことも起こるであろう。欧米では、多くの学会が産学連携による医学系研究の適正な推進や、学会発表での公明性を確保するために、医学系研究にかかる利益相反指針を策定している。腫瘍研究、中でもがんの予防・診断・治療法に関する研究・開発活動は近年、国際化の中で日米欧の共同研究のもと積極的に展開されており、本邦における利益相反指針の策定は急務とされている。この様な情勢を受けて、日本癌治療学会(JSCO)、日本臨床腫瘍学会(JSMO)による、がん臨床研究の利益相反指針にかかる合同策定部会により、がん臨床研究の利益相反に関する指針が2008年4月に作成開示された。JSGOの事業実施においてもJSCO/JSMOと同様に、会員に対して利益相反に関する指針を明確に示し、産学連携による重要な研究・開発の公正さを確保した上で、医学系研究を積極的に推進することが重要であるため、ここに先のJSCO/JSMO合同作成部会による指針を基本として一部改変した指針を開示する。

1. 指針策定の目的

すでに、「ヘルシンキ宣言(2013年改訂)」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(厚生労働省告示2017年)」において述べられているが、医学系研究は、他の学術分野の研究と大きく異なり、研究対象が人間であることから、被験者の人権・生命を守り、安全に実施することに格別な配慮が求められる。

JSCO/JSMOと同様にJSGOにおいても、その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み、「腫瘍研究の利益相反に関するJSGO指針」(以下、本指針と略す)を策定する。その目的は、JSGOが会員および関係者の利益相反状態を適切にマネージメントすることにより、研究結果の発表やそれらの普及、啓発を、中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ、腫瘍の予防・診断・治療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある。 本指針の核心は、JSGO会員および関係者に対して利益相反についての基本的な考えを示し、 JSGOが行う事業に参加し発表する場合、利益相反状態を適切に自己申告によって開示させることにある。JSGO会員および関係者が、以下に定める本指針を遵守することを求める。

2. 対象者

利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し、本指針が適用される。

(1)JSGO会員
(2)JSGOの従業員
(3)JSGOで発表する者
(4)JSGOの理事会、委員会、作業部会に出席する者

3. 対象となる活動

JSGOが関わるすべての事業における活動に対して、本指針を適用する。特に、 JSGOの学術集会、研修会及び市民公開講座での発表、および、JSGOの機関誌、論文、ガイドラインをはじめとする図書やインターネット上などでの発表や執筆を行う研究者には、医学系研究のすべてに、本指針が遵守されていることが求められる。JSGO会員に対して教育的講演を行う場合や、市民に対して公開講座などを行う場合は、社会的影響力が強いことから、その演者には特段の本指針遵守が求められる。

4. 開示・公開すべき事項

対象者は、自身における以下の(1)~(11)の事項で、別に定める基準を超える場合には、利益相反の状況を所定の様式に従い、自己申告によって正確な状況を開示する義務を負うものとする。また、役員(理事長・副理事長・理事・監事)、学術集会長、次期学術集会長、次次期学術集会長、各種委員会委員長、各種ワーキンググループ委員長、社会保険委員、倫理委員、ガイドライン委員、利益相反委員、編集委員はその配偶者、一親等の親族、または収入・財産を共有する者における以下の(1)~(3)の事項で、別に定める基準を超える場合には、その正確な状況を学会に申告する義務を負うものとする。なお、自己申告および申告された内容については、申告者本人が責任を持つものとする。具体的な開示・公開方法は、対象活動に応じて別に細則に定める。

(1)企業や営利を目的とした団体の役員、顧問職
(2)株の保有
(3)企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
(4)企業や営利を目的とした団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して 支払われた日当(講演料など)
(5)企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
(6)企業や営利を目的とした団体が提供する研究費
(7)企業や営利を目的とした団体が提供する奨励寄附金
(8)訴訟等に対して企業や営利を目的とした団体から支払われる顧問料及び謝礼
(9)企業や営利を目的とした団体からの研究員等の受け入れ
(10)企業や営利を目的とした団体が提供する寄付講座への所属
(11)その他の報酬(研究とは直接無関係な、旅行、贈答品など)

5.利益相反状態の回避

1)全ての対象者が回避すべきこと

研究の結果の公表は、純粋に科学的な判断、あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。JSGO会員は、研究の結果を会議・論文などで発表する、あるいは発表しないという決定や、研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について、その研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約書を締結してはならない。

2)臨床研究の試験責任者が回避すべきこと

臨床研究(臨床試験、治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者(多施設臨床研究における各施設の責任医師は該当しない)は、次の利益相反状態にないものが選出されるべきであり、また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。

(1)当該臨床研究を依頼する企業の株の保有
(2)当該臨床研究で使用する医薬品・医療機器等の知的財産権の保有
(3)当該臨床研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員、理事、顧問(無償の科学的な顧問は除く)

但し、(1)~(3)に該当する研究者であっても、当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり、かつ当該臨床研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には、当該臨床研究の試験責任医師に就任することは可能とする。

6.実施方法

1) 会員の役割

会員は研究成果を学術集会等で発表する場合、当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする。開示については細則に従い所定の書式にて行う。本指針に反する事態が生じた場合には、利益相反を管轄する利益相反委員会にて審議し、理事会に上申する。

2)役員等の役割

JSGOの役員(理事長・副理事長・理事・監事)、学術集会長、次期学術集会長、次次期学術集会長、各種委員会委員長、各種ワーキンググループ委員長、社会保険委員、倫理委員、ガイドライン委員、利益相反委員、編集委員(以下、役員等と略す)は学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状況については、就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行なう義務を負うものとする。

理事会は、役員等がJSGOのすべての事業を遂行する上で、深刻な利益相反状態が生じた場合、或いは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合、利益相反委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。

学術集会長は、JSGOで研究成果が発表される場合、その実施が、本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する演題については発表を差し止めることができる。この場合には、速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお、これらの対処については利益相反委員会で審議し、答申に基づいて理事会で承認後実施する。

編集委員会は、研究成果がJSGO刊行物などで発表される場合に、その実施が、本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する場合には掲載を差し止めることができる。この場合、速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は、当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる。なお、これらの対処については利益相反委員会で審議の上、答申に基づいて理事会承認を得て実施する。

その他の委員長・委員は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が、本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については利益相反委員会で審議し、答申に基づいて理事会承認を得て実施する。

3)不服の申立

前記1)ないし2)号により改善の指示や差し止め処置を受けた者は、JSGOに対し、不服申立をすることができる。JSGOはこれを受理した場合、速やかに利益相反委員会において再審議し、理事会の協議を経て、その結果を不服申立者に通知する。

7.指針違反者への措置と説明責任

1) 指針違反者への措置

JSGO理事会は、学会が別に定める規則により本指針に違反する行為に関して審議する権限を有し、審議の結果、重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には、その遵守不履行の程度に応じて一定期間、次の措置を取ることができる。

(1)JSGOが開催するすべての集会での発表の禁止
(2)JSGOの刊行物への論文掲載の禁止
(3)JSGOの学術集会の会長就任の禁止
(4)JSGOの理事会、委員会、作業部会への参加の禁止
(5)JSGOの代議員の除名、あるいは代議員になることの禁止
(6)JSGO会員の除名、あるいは会員になることの禁止

2)不服の申立

被措置者は、JSGOに対し、不服申立をすることができる。JSGOがこれを受理したときは、利益相反委員会において誠実に再審理を行い、理事会の協議を経て、その結果を被措置者に通知する。

3)説明責任

JSGOは、自ら関与する場にて発表された研究に、本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合、学会の利益相反委員会および理事会の協議を経て、社会への説明責任を果たす。

8.細則の制定

JSGOは、本指針を実際に運用するために必要な細則を制定する。

9.施行日および改正方法

本指針は、社会的影響や産学連携に関する法令の改変などから、個々の事例によって一部に変更が必要となることが予想される。利益相反委員会は、理事会・総会の決議を経て、本指針を改正することができる。

附則

1.本指針は2010年5月1日より施行する。
2.2017年7月27日改定

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