公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 25周年記念事業

第3回 座談会

鈴木

片渕先生、ありがとうございました。
さて三上先生は理事長になられてちょうど1年経過したと思うのですが、1年を振り返って、あるいはこれまで先生が行ってきたことも含めてお話をお願いしたいと思います。

三上先生
三上先生

三上

私が日本婦人科腫瘍学会にいつ頃から関係しているかと言うと、1990年の卒後6年目に日本婦人科病理・コルポスコピー学会に入会しました。それから留学して、慶應に戻った1997年に昔のコルポスコピー学会の編集幹事を務めました。その頃、実際に何をやっていたかと言うと、総会や理事会の受付をやっていたんです。その時に色々な先生に顔を覚えていただいて、いい経験になりました。
そうして事務局が慶應にあった関係で、常務理事会とか理事会とか偉い先生方の会議に出ていたんです。編集委員会の幹事を務めた後、委員を務めていたように記憶しています。2006年に東海大の教授になった後に理事に就任して、現在に至っています。理事に就任してからは、先輩である宇田川先生や青木先生には本当にお世話になって、まず会計担当理事を2年間やっていました。青木先生には「全体のカネの流れをよく見ておけ」と言われていたのですが、今こうして理事長になって、カネの流れは本当に重要だなと実感しています。お金がなければやろうと思うことはできないわけですし、マイナスにしてしまうわけにはいかない、そこを十分に考えながら物事を動かさなければいけない。今理事長になってお金のことばかりを言っていますけれど、その基礎ができたのかなと思います。

三上先生
三上先生

その後は頸癌のガイドライン作成で小委員長を務めました。そこから12年間ガイドライン委員会に関わりましたが、一番印象的だったのは検証委員会です。ガイドラインを作成するという段階の次に、ガイドラインがどのように導入されているか、クオリティインディケーター、治療の均霑化がなされているのかを見てみるという仕事でした。そして次に患者さんの予後がどうなっているというのを検証させていただいたわけです。当時、頸癌の広汎全摘後の術後化学療法というのがどんどん行われていたわけですけれど、実は、有意差がないですけど、亡くなっている人が多いという結果が一番ショックでした。それに反してⅢ期の患者さんの予後が良くなった、術前化学療法が減少したということです。そこから学んだことは、ガイドラインの力は大きいということでした。

やはりエビデンスの有無、標準治療と非標準治療をしっかり区分けして考えないといけない。これがエビデンスのある標準治療ですよと提示されると言われたらみんなそれに従うわけでガイドラインは非常に大きな意味を持っているんだなと思いました。あと私は医師の腕によって予後が違う癌というのを目指してやってきたので、特に手術に関して施設によって大きな差があるだろうと思って調べたら、日産婦腫瘍委員会のデータを調べて婦人科腫瘍学会の修練施設とそうでない施設の予後の差がやはり歴然なわけです。さらにJGOGの試験で6,000を超える例の広汎全摘例を収集し調べたら、施設が扱っている患者数によって予後が違うという結果も得ることが出来ました。ですから施設の集約化というのはやはり必要だなと考えています。卵巣がん治療ガイドラインへ携わった際に、集約化の文言をコンセンサス会議で提案させていただきました。こうしたことから、ガイドラインは、日本全体の患者さんの予後に大きく影響があるということをしっかり頭に入れて議論していただければと思っています。
それと片渕理事長時代にJESGOを創設しました。各施設のサマリノートという位置づけですけれども、これを定型化して、どの施設も同じサマリーノートを持っているということです。全国どこでも同じ形式なので、データを集めようと思ったらすぐに容易に集めることができるというシステムです。当時、内視鏡学会と産科婦人科学会、婦人科腫瘍学会それぞれの理事会メンバーになっていたので情報共有を行いやすく、うまく話が進められたという側面もありました。これの導入に際して一番印象に残ったのは、その時幹事をやっていた山上先生の提案で、30代の若手を5人委員会に組み込んだことです。この若手5人がものすごい力になりました。10年後は全国津々浦々の癌をやっている施設で導入され、日本の婦人科腫瘍の動向はJESGOを用いるとすぐに把握できる、、つまり日本全体の婦人科腫瘍の臨床の問題点もわかる。そこから必要な臨床試験は何なのか?という流れも出てくると思います。その臨床試験の結果をガイドラインに反映させていく。そして問題点を解決して患者さんの予後を向上させるというサイクルもきっとできるんじゃないかなと思います。

あと片渕先生の時代に開始したウェブセミナーですね。片渕先生の時代は2年間教育委員会委員長をさせていただいたのですが、色々な出自の先生方…腫瘍内科、病理、放射線治療、画像診断の先生方と、婦人科の先生の中でも薬物療法が得意な先生、手術が得意な先生、臨床試験について詳しい先生など色々な方に入っていただいて、それぞれ手術の話をしたり病理の話をしたりと、様々な分野の話をしていただいてきました。現在も定期的に開催しています。それらを動画として保存してあり、HP上のJSGO e-academyにも載せています。教育コンテンツをどのように増やしていくという取り組みまでが教育委員会委員長時代に関わった部分です。

理事長になってからは特別何をしているというわけでもありませんけれど、私が一番気になったのは、ここ10年間で女性会員が増加しているにもかかわらず、専門医委員会のデータを見ると、腫瘍専門医試験を受ける女性が3,4年前から横ばいになっているんです。これは大きな問題だなと感じています。どういうことかと言えば、働き方改革とかダイバーシティを考えなければいけない。そうしていかないと、将来の腫瘍学会がどういう形になっていくか見えてこないんじゃないかと思います。海外の学会では女性が圧倒的に多く活躍している状況になっていますけれど、日本もその辺の議論をしていかないといけない。これは腫瘍専門医を取得した後の生き方にも関係していますから、一つは若手のワーキンググループですね、そういうところで将来若手がどういうことをしていきたいかということを検討していく。馬場先生が委員長になって話を進めていただいています。また特に専門医のありかたがどうなっていくべきか、は重要なテーマです。私たちが専門医を取ろうと思った頃は、広汎子宮全摘の数というのが一番大きい条件だったんです。以前は腫瘍学会の専門医はどちらかと言うと手術と病理に重きを置いてきました。それが今日では薬物療法とか画像診断とか臨床試験とか緩和医療とかいろいろな分野が入ってきて、勉強する分野・内容が増えてきている。腫瘍専門医になった後にどこに自分の軸足を置くのか、今後は考えなければいけない、そんな議論も始めています。ということで、腫瘍専門医の申請要件で広汎子宮全摘数をどうするかとか、ある程度の年数が経つと辞退するという人も出てきているので、更新の要件をどうするかとか、そういった議論も始めています。今一番大きい課題は、この4年間のコロナ禍でコネクションが取れなかった中、とにかく国際化を進めなければいけない。若い人の中には、英語が得意で海外の先生方とコネクションを取りたいという先生もいらっしゃると思うんです。そういう若者にたくさん種を播いておいて、将来、国際化に貢献して学会の国際化の先導者、懸け橋になっていただければと考えています。IGCS、ESGO、SGO、ASGOなど、そういった学会のコアになるような若者を育てていくことが大切かと。それをしっかり方針として、若い年代の理事、これから10年20年後を支えていくような理事たちの意思をしっかり確認していこうと思っています。一世代あとのことを考えて、いろいろな方の意見を聞きながら進めていこうと思っています。

日本婦人科腫瘍学会と
国際化

鈴木

ここまで青木先生、片渕先生、三上先生に、5年間の振り返りをしていただきました。5年間のうち3年間はコロナの時代であり、片渕先生がいつも仰るように「ピンチはチャンス」といった難しい時代を乗り越えて、このままこの時代が続いていくのか、それとも終息に入るのか、私たちが今後受け止めていく時代がやってくると捉えております。こうしてまだ先が見えない時代の中、国際化というキーワードで少し話していきたいと思います。その後は若手や女性等に関する今後の本会のあり方、あるいは専門医制度にも関わってきますので、その辺りのことについても話を進めていきたいと思います。
まずは岡本愛光先生から、京都で開催されたIGCSも含めて、これまで行われた海外との連携など、今後のことも含めて国際化というキーワードでお話しいただきたいと思います。

岡本

今後の日本を考えますと、GDPについては5年後10年後には中国・インド・インドネシアにも負けてしまう、そういったことが言われておりまして、人口も減少しますし、高齢化して、世界の中で日本は何の変哲もない、平凡な国へ向かっているような気がします。ただ医学はそうではあってはいけないのではないかと強く思っています。ですから積極的に世界へ出ていって、世界に通用する若手をどんどん育成していかなければいけないと考えています。まずASGO、IGCS、KSGOとの関係ですけれども、韓国は非常に大切な国で、その関係を辿りますと日本産科婦人科学会やASGO、JGOGなどには長い歴史があります。一方のKSGOとJSGOの連携というのは今回始まったばかりです。昨年IGCSがニューヨークであった時にKSGOの理事長になられたJae-Weon Kim先生と会うことがあって、その時に若手交流を図っていきましょうという話をしたところ、今年4月のKSGOの時にJSGOから全部で8名の方が招待されました。そして今回は京先生のご協力もありまして、またアジアのセッションが開かれて、韓国からはJGOのプリンシパルエディターをはじめ25名の方がこのJSGOに参加されました。これからはさらにKSGOとの交流を中心に国際化へ向かっていきたいと考えております。

またASGOに関しましては、韓国以外にもアジア諸国との連携を深めるという大きな意味があります。これまで青木先生が理事長をされて、今度は万代先生も理事長に就任されますし、2025年には小林陽一先生がASGOとのコラボレーションで婦人科腫瘍学会を東京にて開催するということで、非常にいい流れになっているのではないかと思います。IGCSについてはさらに世界レベルになります。今回非常に良かったのはMary Eiken, CEO、藤原恵一,Presidentが来られて、ディスカッションの場があったことです。今後アライアンスを結んで、より多くのJSGOの会員がIGCSの中に入るきっかけになるのではないかと思います。またなんといっても鈴木直先生がIGCSのアジア・オセアニアの代表理事になられました。

岡本先生
岡本先生

これからは鈴木先生が中心となってIGCSの活動に積極的に参加され、さらにいい流れになっているのではないかと思います。これを通して海外にどんどんアピールしながら海外に通用する若手をどんどん育成して、JSGOのプレゼンスを世界レベルで発揮できるようになればと思っております。

岡本先生
岡本先生

鈴木

ありがとうございます、国際化という観点でまず岡本先生に話していただきました。次に、ASGOの理事長を経験された青木先生にも、今後の国際化というキーワードで今一度お話をお願いしたいと思います。

青木

参加することが大事だと思っています。さらに1回行ったところでこれといって何もできないわけですから、毎年同じ学会に参加する。そうするとアジアの学会は交通費等々有利なんですね、ですから私もIGCSは毎年行きましたし。それでいつも行っていつもいるメンバーと話ができるのは良いなと感じました。いつも行っている人は大事にしてあげた方がいいなと。どこかで友達をつくっていますから。ですから、「国際学会を経験している」のような要件を専門医の要件に入れるのはどうかな、などと思ってしまいます。若手を専門医で引っ張るというのは一つのアイデアじゃないかなと。例えばJESGOなんか、いじったことない人がこれから専門医になっていくのもどうだろうとも思いますので、仕組みも含めて意義を試験に出すなんていうのはどうか。そんなことを考えています。

片渕

今回の学術集会で新しい流れができたと思ったことがありました。私が3年前に理事長になった時に、岡本先生に国際化ということをお願いしました。その背景には、八重樫先生に「アジア、特に韓国との関係を強固にしなさい」と言われたことがあったからです。それを念頭にまず海外から学術集会に参加してもらうようにしなければいけないと思い、去年の久留米での学術集会のときに計画していただきましたが、残念ながらコロナ禍の中にあって実現できませんでした。しかし、今回はアジアの国々から沢山の参加がありました。それを肌で感じたのは、特別講演で来日した米国ジョンズホプキンス大学のIe-Ming Shih教授と講演の翌日に話したときに「今日は何をして過ごしたの」と聞くと、お決まりのsightseeingという答えではなく、「インターナショナルセッションがプログラムにあったのでその会場に行って、アジアの国々の発表をいろいろ聞けて面白かったよ」と言ったんです。外国から招請された演者には日本語の発表はわかりませんので、こんなことはこの学会では今までなかったことだと思います。

岡本

KSGOの理事長をここの学会の名誉会員にするべきだと思います。今回Yong Man Kim先生が名誉会員になられましたが、彼はKSGOの理事長経験者ではなくKGOG理事長経験者ですね。韓国もKSGOとKGOGと2つあるのですが、しっかりと区別されております。今後はその点も踏まえて交流することは重要だと思います。

鈴木

次のASGOの理事長として、万代先生に、国際化というキーワードからお話をお願いしたいと思います。

万代

私のときは上に岡本先生がずっとおられたので、国際化については岡本先生がいらっしゃる限り私はやらなくていいと思っていたんです。それで一言だけ岡本先生にお願いしたのは、先生の次の人をつくってくださいねと言うことです。今はすごくいい流れになっていい感じにやっていただいていると感じます。

鈴木

三上先生はいかがでしょうか?

三上

将来の岡本先生のような方が若手から何人か育ってほしい、と思っています。ですから若手を育てる種を播いておいて、KSGOもあれば、ASGOもあるし、ESGO、SGO、IFCPCもあって、そういうところにコミットできる人が何人かいるとものすごい力になる。今の若い人は昔に比べると格段に英語がうまくなっていますよね。必ずそういうところにコミットすると楽しいなというのが出てくるはずなんです。そういう人たちを何人かピックアップできればと思っています。ですからそういう人たちに学会がお金をサポートして、やる気がある人たちを見出していくという。それしかないのではないでしょうか。そうすると10年後20年後にそういう人たちがブリッジになって、色々な人たちと交流できれば違うと思うんです。それが日本の学会全体のためになると信じています。それならこの前の理事会でも言ったのですが、やる気がある人に手を挙げてもらう方式にしようとしています。

岡本

やはりキーとなるIGCS、SGO、ASGO、KSGO、ESGO、IFCPC、そういったところへ毎年顔を出しておくのが重要だと思いますので、各学会にシニアの担当をつけて旅費の一部をサポートすると、そういったようなこと考えています。それから若手については、まず一人でも多くの人にチャンスを与えるという意味で公募にして、一つの学会に対して一人の若手に対する旅費をサポートするという風にいたしました。

鈴木

国際外科学会東京支部の学術集会では、若手の外科医が英語で演題を発表し、ネイティブの評価担当の方から、英語によるプレゼンの評価、例えば話し方や発音等のチェックを受け、英語での演題発表の登竜門となる教育的活動を30年ほど前から行っています。毎年開催されているので、若手の婦人科医も参加してみると良いと思います。私も先日参加して、大変勉強になりました。