公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 25周年記念事業

第3回 座談会

専門医制度と
学会の在り方を問う

鈴木

さて話題は変わります。来年からいよいよ働き方改革が始まるわけですが、学会で現在議論中の今後の専門医制度のあり方に関して、万代先生からお話をお願いしたいと思います。外科医である婦人科腫瘍医の我々が、他の診療科のように化学療法を手放すことはせずに自身でしっかり対応するのか否か等、今後を考えていかなければいけない課題が意見として出ていました。

万代先生
万代先生

万代

私自身は、自分の専門が外科手術ということもあり、これまで、この学会を見てきて、思っていたのは「手術に対するケアが少ない学会だ」ということです。日本産科婦人科内視鏡学会に行くと悪性手術を含めて、手術技術を研修できる場が本当にたくさんあって、若手にそういう場を提供する試みをどんどんやっているんです。そうすると、若手は当たり前ですけれどそういうのを教えてくれるところに行きますよね。ですから内視鏡学会に行くととても華やかで若手がたくさん来て、その若手がどんどん議論をしている。一方、この学会に来ると、黒い服を着た人が怖い顔をしていて華やかさが全然違うんです。

万代先生
万代先生

若者に訴えかけられないこの学会に未来はあるのだろうかということを10年くらい前に考えて、その時に教育担当だった紀川先生のところに寺井先生と一緒に行って、内視鏡研修会を始めさせてもらったんです。その時、私が最初ターゲットにしたのは若手ではなく、内視鏡を見たこともないおっさんたちを内視鏡の前に引っ張り出してくる。そして内視鏡でも十分手術ができるということを見せるっていうことです。それを内視鏡学会ではなくてこの学会、内視鏡学会には出たことがないような婦人科腫瘍の偉い人たちに対して、当学会がケアをして、そういう世界を見てもらわなければいけないのではないかと。これはJSES(日本内視鏡外科学会)とかにずっと関わっていて感じたことでもあります。JSESは内視鏡の学会ですけれど、彼らの専門はほとんどが腫瘍なんです。

ですから腫瘍イコール内視鏡なんだけれども、婦人科の世界では内視鏡と腫瘍がスパッと分かれています。その中で腫瘍学会が全くそこのところをケアしようとしていない状態というのは、悪性腫瘍手術の世界全般で婦人科が遅れていく原因になっていくだろうと。であれば、いま、キャッチアップしていかなければいけないということで、やってきました。

それから専門医の要件の中で広汎子宮全摘の話が出ましたが、キーワードはFor the patientなんですね。患者さんに正しい医療を与える、という観点から決めなければいけないと。年配の先生はこれまでのご自分の経験から「広汎子宮全摘を10例くらいはやらなあかんやろ」とかと仰るかもしれませんが、そうではなくて、5年後10年後の患者さんを思って決めなければいけないだろうと。それを考えると、どう考えても広汎全摘の数で縛るのは時代に即していないと思います。SHAPE trailの結果も出てきて、極論すれば広汎全摘は、将来ごく一般診療からは消滅していく技術なんです。その技術習得を若い先生に押し付けると言うことは、結局それが学会の姿勢だと若い人たちは感じると思うんです。若い人たちが今、なかなか婦人科腫瘍学会を向いてくれない、まず内視鏡技術認定医を取ってから考えますと言われるのは、腫瘍学会が自分たちの未来を考えてくれているのかということに繋がっているのではないかなと私は思っています。彼らが10年後に必要な技術は何かということをしっかり考えて、それに合ったものを我々が与えるんだと言う姿勢を示さないといけないのではと思っています。

さらに、国際化はもちろん、すごく大事ですが、同時に加藤聖子先生が日産婦で使われる言葉で学際化ですね、特に産婦人科の中での横のつながりが特に今後の婦人科腫瘍の発展の中で大事だと思っています。がん生殖や、周産期のがん、がんサポートケア、そういった境界領域的な部分に今後我々が生きていく道があると思いますし、そこをやりたいという人たちが結構多いですよね。女性医師であればがんサポートを専門にするとか…そういった先生が興味ある専門で生きていけるような素地をつくっていかなければいけないんです。そういう意味でも、外科・内科といった他分野や、産婦人科内の他の領域といかにうまく交わっていくかということも、今後の方向性として一つ大事じゃないかと思っています。

鈴木

ありがとうございます。私がやらせていただいているがんとの共生も、そこはセクシャリティもそうですし、アピアランスケアもそうですし、ソーシャルケア、緩和ケアも、そこは確かにやっていくと。あえて言わせていただきますと、産婦人科医として手術をして化学療法をして患者さんを治すのは当たり前で、それ以外のことができてなんぼだと思っているので、先生の意見に賛同いたします。

話を少し戻しますと、学会に若手を増やすという中で、総務委員会で調べたデータですと、途中で学会を退会された方の中では、広汎子宮全摘の数が高い壁になっているという現状があります。結局数が足りなくてやめたとか、育児など途中で休むことがある中でなかなか手術をずっとやるのが難しいとか。これから女性が増えていく中で、若手の教育も大事なのですが、そういったことにも目を向けていかないと、我々の学会が先に進んでいかないかないんじゃないかと思っています。そんな中で、三上先生、専門医制度を含めて今後の学会の在り方についてご意見をいただけますでしょうか?

鈴木先生
鈴木先生
鈴木先生
鈴木先生

三上

まず学会の基本は患者のためになることを勧めるが使命と思います。患者さんはうまい先生に手術してもらいたいことが当たり前なので、私は修練医が手術をすることについて私は失礼だと考えています。ESGOでは、骨盤の解剖をマスターするために広汎子宮全摘術のトレーニングは必要だといわれています。日本では症例の取り合いになっているのを聞くと、何のためにしているのかなという気がしてしまいます。MISに関しては動画で勉強してトレーニングボックスで練習して、その後、現場で体験できるわけだから、その骨盤解剖のトレーニングに関しても実の患者に対して手術を執刀するだけでなく何かいい方法がないかと思います。。若い人たちには、将来どういう風に議論を進めていくのかを見せるためにも、広汎全摘の数の条件を少しでも緩和して、あとは専門医を取った後にどんな生き方があるかを示すべきです。自分がどこに軸足を置いて腫瘍専門医として生きていけるのか、いろんなパターンがあるわけで。MISで頑張っている先生もいるし、薬物療法で詳しい人もいるわけですし、専門医を取得した先生方が個別に育っていけばもっと厚い医療ができるわけです。
私が患者さんのためと思ったのは集約化です。婦人科腫瘍の中でも各分野にプロフェッショナルな人がいて、腫瘍専門医がチームとして活躍しているという形にする。そうやって門戸を広げないと、本当のプロフェッショナルになるような人たちがいなくなっちゃうかもしれませんよね。私は専門医制度を厳しくしすぎるのは良くないと思っているんです。ただ患者のためにどうするかと言うと、センター化をする。そうやって2つの発想でやっていった方がいいかなというのが私の結論です。

鈴木

それでは片渕先生、今のディスカッションの続きで、我々の学会の今後の在り方、特に専門医制度の在り方に関してご意見をお願いします。

片渕

私が理事長のときに一番やりたかったことは“教育”でした。しっかりした教育を続けていかなければ、この学会に若い人たちは今後目を向けてくれないだろうと思いました。そこで、最適任と思った三上幹男先生に教育委員会を託しました。

今回導入したウェブセミナーは一つのツールですが、何らかの形で良質の教育を続けていくことこそが若い人たちが注目してくれる術だと思います。これは一つの事例ですが、がん診療を考えたときに、一般診療のクリニックの医師はがんの患者さんを診るのにあまり前向きではありませんので、婦人科腫瘍専門医の資格を持った医師のいるクリニックでがんサバイバーの患者さんたちを連携して観ていく、そのための学びの場を提供することはできると思います。若い医師、女性医師、あるいは一線を退いた医師が、どういう仕事を担っていくのがいいのか、いろいろな形の学ぶシステムをつくっていくのが大事だと思います。勿論、手術や化学療法、病理も大事ですが、もっとダイバーシティの視点に立って、この学会がもっといろいろな立場の会員のために学びの場を提供していかないと、会員は今後学会に期待しないようになると思います。

鈴木

青木先生はいかがでしょうか?

青木

色々なことをやる人がいる、いろいろな専門家がいるということには私も大賛成です。そのキーワードみたいなものが、がん対策推進基本計画などに散りばめられているんですよね。ですから、それを知っていることが大事ではないかなと思います。手術が全くできない人はこの学会の専門医になるのはおかしい気がしますし、薬のこと何も知らない人が専門医になるのもおかしいだろうし、それからオンコロジー、がんの診療の総論・やり方がわかっていれば、自ずとその周辺のことが必要だということを自ら理解してくれるのではないかなと。その方向付けを専門医までの修練でしてあげればいいのかなという考えです。私がそんなことを言う理由の一つは、この学会からがん検診って消えましたよね。子宮頸がんのがん対策としてもっとも有効な方法なんです、がんの死亡者数を減らすということでは最も有効です。死亡率を減らすということがすごく大事で、例えばですけど基本計画でも書き分けられているんです。1番の目的が死亡率の減少で、2番目の目的が生存率の上昇なんだと。とにかくそういう総論をしっかり理解していくと、長生きさせたけどやっぱり駄目だねというのをなんとかCureに持っていくにはどうするのか、ということを考える専門医がいてほしい。そして治らない人もいるので、その人たちのケアをどうするかという考えにも必然的になっていくと思うんですよね。専門医の認定試験とはその入り口じゃないかなと思うんです。いろいろなことを要件の中に入れ込むというところでは、総論的な考えが大事だなと思っています。

岡本

やはり若手がもう少し色々意見が言えるような学会にしていかなければならないなと感じています。イメージも変えていかなければいけないと思います。専門医も今後もう少し広くして、手術、薬物療法といったところを二階建ての資格にしていくことも考えていかなければいけないかなと思っています。あと更新に関しては色々なパターンがあるので、あまりきつすぎてもいけないのではないかなと感じた次第です。それと検診の話が青木先生からありましたけれど、片渕先生が理事長の時に関連学会情報コミュニティ小委員会を設置されたこともあったように、日本産科婦人科学会もそうですし、臨床細胞学会、婦人科がん検診学会、JGOG、がん治療学会などもありますので、そのような学会間で情報を共有しながら、かつ若手に魅力的な学会にしていく必要があるのではと思いました。専門医の要件に関しては、そもそも15例やって、修練から専門医を取得した先生というのは、そのあと他の人に譲らなきゃいけないから執刀できないんですよね。これは大きな問題ですよね。

鈴木

手術、特に広汎子宮全摘出術の経験症例の数をどうするかという議論は、時代毎に議論されてきたかと思います。野澤志朗先生が理事長の時、広汎子宮全摘出術の経験症例数に関する議論の場に私は副幹事長として陪席していました。議論の中で、アメリカのボードを持っておられた九州の塚本先生のご意見が15例だったわけですけれど、その時代は技術で患者さんを治すという考え方が主流であったかと思います。しかしながら、それは当時の考えであって、今の時代に合わせた症例数を検討する必要性があるのだと考えます。そもそも、なぜ専門医の取得要件になっているのか等の議論から、つまりゼロから議論すべきではないでしょうか。