新型コロナウイルス感染症(COVID-19)および、婦人科がんについてQ&A
医療従事者向け
ホルモン治療について
子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がん等に対する黄体ホルモン治療において、考慮すべき事項としてどのようなことがあるか?
① 子宮内膜異型増殖症ないし子宮筋層浸潤の無いIA期子宮体がん(高分化型類内膜癌)と診断し、子宮の温存を希望する患者の場合は、高用量メドロキシプロゲステロンを用いた黄体ホルモン治療を行うことが考慮されます。COVID-19感染蔓延下の状況では、腫瘍の進行が緩徐だと予想される場合、あるいは多量の出血などの自覚症状が無い場合などは患者と相談しながら適宜受診間隔の調整を行うことも考慮されます。
② 子宮内膜異型増殖症ないし子宮筋層浸潤の無いIA期子宮体がん(高分化型類内膜癌)等では、黄体ホルモン治療により病変の進行を遅らせられる可能性があります。COVID-19感染蔓延状況によって手術待機をせざるを得ない場合は、その間に黄体ホルモン治療を行うかどうか、患者と相談しつつ考慮して下さい。腫瘍が黄体ホルモン治療に反応することが期待できる場合には、子宮外病変があっても、主治療の延期中に黄体ホルモン治療を行える可能性もあります。
- COVID-19 and gynecological cancer: a review of the published guidelines. Int J Gynecol Cancer 2020;0:1–10. doi:10.1136/ijgc-2020-001634
- ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: gynaecological malignancies. ESMO Open. 2020 Jul;5(Suppl 3):e000827. doi: 10.1136/esmoopen-2020-000827.
がんの種別の治療について
COVID-19感染蔓延時における婦人科がん治療の考え方は以下の通りです
1) 流行の程度や地域・施設の条件により選択しうる治療法は異なります。
2) 病態を重症(生命にかかわる、緊急性がある)、中等症(大幅な遅延は生命予後に関わる)、軽症(一定期間の治療延期や別の治療選択が予後を大きく変えない)に分類して治療の延期や治療法の変更を考慮すべきです。
3) 同様の効果が期待できる治療であれば、通院や入院が最小限となる治療法を選ぶことを考慮すべきです。
4) 経過観察や投薬のみの場合は電話診療や遠隔診療を活用することも考慮すべきです。
※ 以下に記すことは、全国的にCOVID-19感染蔓延状況となった場合の対応となります。地域の感染状況や、各医療機関の院内の医療体制は、それぞれの病院で異なります。他院へ転院して標準的な治療を受けることも考えられますので、患者と相談しながら臨機応変に対応頂くことをお勧めします。
①子宮頸がん
1)頸部細胞診の異常があった場合、直ちに精査・加療すべきか?
通常はすぐに精密検査を施行すべきですが、細胞診異常の程度により一定期間、精密検査を延期できる場合があります。ASC-US(意義不明な異常)やLSIL(軽度異形成)の場合は6か月程度、ASC-H(中等度異形成以上が否定できない)やHSIL(中等度異形成以上)、AGC(腺系の異常)やAIS(上皮内腺癌)の場合は3か月程度を上限に精密検査を施行すべきです。浸潤がんが疑われる場合は早期の確定診断と加療が必要です。
2)初期浸潤がんの場合、直ちに治療を開始すべきか?
CIN病変(異形成)では一定期間(最大3か月)治療を延期して厳重に経過観察を行うことが可能です。それ以外の場合は原則として早期治療が必要となりますが、子宮頸部円錐切除術等で完全に切除されたIA1期子宮頸がんの場合、手術の緊急性は低くなります。IA1-IA2期では最大2か月までの治療延期が考慮されますが、妊孕性温存の必要性など個々の患者の条件も加味して判断される必要があります。IB期・II期病変では最大でも1~2か月 までは延期が可能ですが、同時化学放射線療法等の別の治療法を行うことも考慮されます。同時化学放射線療法を選択する場合、極力、遅延なく施行すべきですが、通常よりも治療期間を短くした治療計画で治療を行うことも考慮されます。
3)子宮頸がんで術後治療が必要な場合、治療の延期は可能か?
再発低リスク群では、COVID-19感染が蔓延中の術後治療(術後補助療法)を延期することも考慮できます。再発中リスク群では2か月までの術後補助療法を延期することも考慮されますが、再発高リスク群では遅延なく術後補助療法を行うべきです。
4)子宮頸がん治療後の定期受診の延期可能か?
再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。受診の頻度や間隔などは病状やリスクに応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。
②子宮体がん
1)子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がんの場合、黄体ホルモン治療はどのように行うべきか?
子宮内膜異型増殖症ないし子宮筋層浸潤の無いIA期子宮体がん(高分化型類内膜癌)と診断され、かつ子宮の温存を希望する患者に対しては、一般的に高用量メドロプロゲステロンを用いた黄体ホルモン治療を行うことが考慮されます。COVID-19感染蔓延下の状況では、腫瘍の進行が緩徐だと予想され、多量の出血などの自覚症状が無い場合などは患者と相談しながら適宜受診間隔の調整を行うことも考慮されます。
2)早期子宮体がんの場合、手術はいつまで延期可能か?
多量の出血等の症状がない場合は、最大2か月までの延期が考慮されます。その間、黄体ホルモン治療を行うかどうかは、治療の感受性を考慮の上、患者と相談しながら判断下さい。
3)子宮体がんの術後治療が必要な場合、延期可能か?
再発低リスク群では、COVID-19感染が蔓延中の補助療法を延期することも考慮できます。再発中リスク群以上ではできるだけ遅延なく補助療法を行うべきですが、通院・入院が少ない治療法が考慮されます。すなわち放射線治療の場合は小線源療法の選択や分割照射回数の減少、化学療法の場合はpaclitaxel +carboplatinなどを選択することも可能です。患者と相談しながら適宜判断下さい。
4)進行子宮体がんや再発子宮体がんの治療はどうすべきか?
原則的には遅延なく行うべきです。できるだけ通院・入院が少ない治療法を選択することも考慮されます。効果があると考えられる場合は黄体ホルモン治療も考慮されます。病状に応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。
5)子宮体がんの治療後の定期受診はどうすべきか?
再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。受診の頻度や間隔などは病状やリスクに応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。
③卵巣がん
1)付属器(卵巣・卵管)切除等で主病変を摘出した後に初期卵巣がんと診断されたが、進行期を決定するために追加で手術を行うべきか?
進行期を決めるためのステージング手術は最大2か月までを目安に延期されることが考慮されます。
2)進行卵巣がんの場合にどのような治療を行うべきか?
感染蔓延による医療情勢の逼迫により、術後集中治療が必要な広範な手術が施行困難な場合は、平時であれば手術先行を選択する患者に対しても、術前化学療法を選択することが考慮されます。化学療法を先行して行うこと(最大6サイクル)で手術を延期できる可能性がありますが、これに関しては治療効果を見ながら慎重に検討する必要があります。
3)卵巣がんに対する化学療法はどう行うべきか?
効果が同等と考えられる薬剤がある場合は、より入院日数が少ない治療、通院回数が少ない治療、あるいは骨髄抑制をきたしにくい治療が推奨されます。組織型も勘案し、化学療法の効果と来院・治療のリスクを勘案して治療の是非を判断することになります。逼迫した医療情勢となった場合、優先順位の高い治療としては、進行癌における術前化学療法、BRCA変異陽性者へのPARP阻害薬、胚細胞腫瘍に対する化学療法などが挙げられます。
4)卵巣がんの治療後の定期受診はどう行うべきか?
再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。受診の頻度や間隔などは病状やリスクに応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。
参考文献
1. COVID-19 and gynecological cancer: a review of the published guidelines. Int J Gynecol Cancer 2020;0:1–10. doi:10.1136/ijgc-2020-001634
2. ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: gynaecological malignancies. ESMO Open. 2020 Jul;5(Suppl 3):e000827. doi: 10.1136/esmoopen-2020-000827.
3. Alternative management for gynecological cancer care during the COVID‐2019 pandemic: A Latin American survey. Int J Gynecol Obstet 2020; 150: 368–378
4. Recommendations for the surgical management of gynecological cancers during the COVID-19 pandemic - FRANCOGYN group for the CNGOF/J Gynecol Obstet Hum Reprod 49 (2020) 101729
5. Wang Y, Zhang S. Recommendations on management of gynecological malignancies during the COVID-19 pandemic: perspectives from Chinese gynecological oncologists. 2020;31(4):e68.
6. Uwins C, Bhandoria GP. COVID-19 and gynecological cancer: a review of the published guidelines. 2020.