公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 25周年記念事業

第1回 座談会

改めて、日本婦人科腫瘍学会に期待することとは

三上

さて、そろそろ時間も迫ってまいりましたので、今後学会に期待することを一言ずつお話しいただきたいと思います。野田先生からお願いします。

野田

この学会は様々な変遷を経てきたわけですが、衣替えをしながらいい方向に進んでいる。決してネガティブな変更が無くて、ポジティブな変更が重なって、そして今いい状況にあると感じています。是非これを続けてほしいというのが私からの1点目です。

それからもう一つには、ここは学会ですから、学問をやってほしいという思いがあります。近年、サイエンスにベースを置いた研究というのが少し下火になっていないかなと感じるためです。これから先はゲノム医療という方向に進んでいくかとは思いますが、そういう方向での研究がこの学会のベースになっていくことを祈っています。

長谷川

私はもう過去の人になってしまいましたが、少し聞きかじっているところですと、今までの婦人科病理と、遺伝子研究のようなことが多種多様に進んでいる中で、各々の枠が外れていっているような印象を受けます。ですから、標本を見て「これでいいんだ」と早合点するのではなく、加えて生化学的なこと、遺伝子学的なこともやりながら、それが統合されていくような、流行り言葉でいえば“科学のニューホライズン”が見えているように感じるのです。ですから今後は、一点じゃなくて総合的に考えられるような方向でこの学会を発展させてほしい。私の夢かもしれませんが、そのように思っています。

西田

この学会に限らないことかもしれませんが、医学と医療のうち医学の分野が少なくなって、医療の分野が多くなっているように感じています。一昔前までは、医学は学会がやって、医療は医会がやるという棲み分けができていたように思うのですが、今は学会と医会の区別がつかなくなっている。では医会の方が学問もやってくれるのかと言えばそうではなくて、学会の方が医療に流れているのではないかと感じるのです。私は、医学には医療よりもロマンが詰まっていると感じています。ですから若い人たちがロマンを感じるような医学、これを是非この婦人科腫瘍学会が先導して発展させていただきたいと思います。

青木

なかなか難しい問題を先輩の先生方からお話をいただいたと感じています。そう言いつつも、私としてはもう少しオンコロジーとしての総論や基盤の部分を大事にしてほしいなとつくづく感じています。目の前のコルポスコピーをできる人が少なくなっているのは確かだと思いますから、それをどうするかというのは「医学」ではないかもしれませんが、皆にできてもらわないと困るということも確かだと思うのです。
学会もやるべきことが多岐に渡っているのは確かだとは思いますが、多様性という昨今の言葉にもあるように、専門医を始めとする教育と、片や学問的なこともしっかりやっていく。両者が対立関係にあることは良くないかもしれませんが、研究というと言葉が難しいということもありますので、取っつきにくいと「医療」に流れた人がいるとすると、それは学会が繋ぎとめてほしいなと思います。

八重樫

私は学会の専門医制度を考える時期にあるのではないかと感じております。この学会が統合して大きくなったことで、婦人科腫瘍分野は明らかに活性化しましたし、それは先人の先生方のご努力ゆえだとは思いながら、我々がなんとか受け継いで今に至るからこそです。

思えば私が産婦人科医になった頃というのは、全国の主任教授のほとんどが腫瘍分野ではなかったはずで、一番多かったのは内分泌、次が周産期だったように記憶しております。今は逆に、腫瘍を専門とする主任教授が6割以上いる感覚で、それもこの学会の発展とパラレルに増えてきた。ではこの学会が30年後トップだろうかというと、それはそれで心配になるわけです。このままでは遺産を食いつないでいくだけではないか、別の分野が追い抜いていくのではないかと危惧しています。

私より少し上の先生方は、例えばラジウムを自分で入れて手の指紋がなくなったとか、病理も自分の教室で診ていたとかいうことを話していたのですが、今ではそうした教室が少なくなっていると聞きます。病理は婦人科病理の先生、放射線は放射線腫瘍医がやっている。それぞれのSpecialityでやっているわけです。そうするとやがて、今の内科のように、心臓は心臓の先生が診るけれど、糖尿病があると糖尿病の先生に行ってください、というような状況にもなりかねず、それは果たして私たちにとっていいことのかなぁ、と考えあぐねてしまいます。あくまでベースにあるのは産婦人科で、その上で婦人科腫瘍を考えるようになってほしい。つまり専門は大事だけれど周りを見ながら学会を運営する、そういった方向に進むと学会の魅力もますます増すのではないかと思います。

岡本

こうして諸先輩方の貴重な話を拝聴して、素晴らしい時間をすごしてまいりました。コルポスコピー研究会の変遷、そしてIFCPCとの繋がり、また日本卵巣腫瘍病理研究会については慈恵の私が一番知らないという事態だったのですが、今日に至るまでには専門医制度の確立、日本医学会への加盟、英文誌の発刊、データベース事業など、本当に多くの先輩方のご尽力で日本婦人科腫瘍学会があるのだなと改めて認識した次第です。先輩方の思いを伝承しながら、これからも学術団体として成長していきたいです。

それからIGCSとの連携、とりわけコルポスコピーの教育というのは世界に通じると思いますので、教育分野での貢献を進めることでIGCSの中でも日本のプレゼンスを高められると思っていますし、ASGOやIFCPCに関してもこれからも連携を取るようにして、加えて今後はSGO(米国婦人科腫瘍学会)、ESGO(欧州婦人科腫瘍学会)の存在も非常に重要だなと感じております。

若い人の教育は非常に重要なので、先輩方の思いを伝承しながら教育を進め、世界の国際学会にも輩出していけるような、そして活性化できるような団体にしていきたいなと思います。

三上

最後に私から。非常に現実的な話をしますと、目下一番に対応をしなければならないのは、医師の働き方改革という問題です。来年、再来年には1年間で960時間勤務を超えてはいけない、それを超えると院長が捕まるという時代がいよいよ迫ってきています。女性医師も増えていきますし、例えば夏休みが2,3日しかないとなると産婦人科に入る人がいなくなってしまうのではないかと。そういうことが直近の課題です。
それと腫瘍専門医、周産期、生殖、女性学、という4つのsubspecialityがあるとすると、八重樫先生の話にもあったように腫瘍学が少しプラトーな状態になってきている感じがするのです。ですから働き方改革と女性医師というところを含めて、人が多くないと大きな仕事もできませんから、そこが近々では大切なところかなと感じています。そういうなかで婦人科腫瘍の治療をしていく魅力を若い人に教えていかないといけないかなと思っています。

三上先生
三上先生

例えば診断の領域においても、昔は病理学、画像診断だったところから、病理学と分子生物学をあわせて、診断をしなければならない時代ですし、それにゲノム医療が加わって治療の仕方も変われば、手術に関しても低侵襲手術が入っています。すなわちやることがすごく多くなってきています。日本婦人科腫瘍学会は放射線科、病理の先生、腫瘍内科の先生とコラボレーションして教育を考えていますが、そこをうまくやって、腫瘍専門医を取った後に色々な道があるんだよということを示していくことこそ大事ではないかと思っております。昔の先生方は手術に診断と全部やっていたわけで、細胞診みて病理診て手術して、放射線に化学療法と網羅してききたわけですが、今の時代、ましてや働き方改革ともなれば、全部やるのは難しいのではないかと。例えば薬物療法一つとっても、頭の中に全部入れるのは難しいのではと思う節もあります。ですから婦人科腫瘍専門医としてある程度の総論はしっかり勉強した上で、その先に様々なsubspecialityをつくることで、色々な生き方が出てくるのではないかなと思っています。この方向に進むことはすぐにできることではありませんが、医師の質とQOLの関係を見ながら進むのがいいかなと思っております。かく言う私も休みの少ない時代に生きてきたわけですが、時代がそうもいかなくなっているようですから、今後学会の皆様とも相談しながら進めていきたい次第です。

さて、そろそろ時間も迫ってまいりましたので、今後学会に期待することを一言ずつお話しいただきたいと思います。野田先生からお願いします。

三上

最後に私から。非常に現実的な話をしますと、目下一番に対応をしなければならないのは、医師の働き方改革という問題です。来年、再来年には1年間で960時間勤務を超えてはいけない、それを超えると院長が捕まるという時代がいよいよ迫ってきています。女性医師も増えていきますし、例えば夏休みが2,3日しかないとなると産婦人科に入る人がいなくなってしまうのではないかと。そういうことが直近の課題です。
それと腫瘍専門医、周産期、生殖、女性学、という4つのsubspecialityがあるとすると、八重樫先生の話にもあったように腫瘍学が少しプラトーな状態になってきている感じがするのです。ですから働き方改革と女性医師というところを含めて、人が多くないと大きな仕事もできませんから、そこが近々では大切なところかなと感じています。そういうなかで婦人科腫瘍の治療をしていく魅力を若い人に教えていかないといけないかなと思っています。

三上先生
三上先生

例えば診断の領域においても、昔は病理学、画像診断だったところから、病理学と分子生物学をあわせて、診断をしなければならない時代ですし、それにゲノム医療が加わって治療の仕方も変われば、手術に関しても低侵襲手術が入っています。すなわちやることがすごく多くなってきています。日本婦人科腫瘍学会は放射線科、病理の先生、腫瘍内科の先生とコラボレーションして教育を考えていますが、そこをうまくやって、腫瘍専門医を取った後に色々な道があるんだよということを示していくことこそ大事ではないかと思っております。昔の先生方は手術に診断と全部やっていたわけで、細胞診みて病理診て手術して、放射線に化学療法と網羅してききたわけですが、今の時代、ましてや働き方改革ともなれば、全部やるのは難しいのではないかと。例えば薬物療法一つとっても、頭の中に全部入れるのは難しいのではと思う節もあります。ですから婦人科腫瘍専門医としてある程度の総論はしっかり勉強した上で、その先に様々なsubspecialityをつくることで、色々な生き方が出てくるのではないかなと思っています。この方向に進むことはすぐにできることではありませんが、医師の質とQOLの関係を見ながら進むのがいいかなと思っております。かく言う私も休みの少ない時代に生きてきたわけですが、時代がそうもいかなくなっているようですから、今後学会の皆様とも相談しながら進めていきたい次第です。

さて、そろそろ時間も迫ってまいりましたので、今後学会に期待することを一言ずつお話しいただきたいと思います。野田先生からお願いします。

野田

この会に出て、長谷川先生が元気であることがまずとても嬉しかったです。それと西田先生が今やっていることも知ることができましたし、岡本先生や三上先生からはこれから頑張ろうという気概を持たれていたことを感じて安心しました。今夜はよく眠れそうです、ありがとうございました。

三上

本日は本当にありがとうございました。先生方の話を飲み込んで噛み砕いて考えながら、理事会の人たちと相談しつつ物事を進めていきたいと思います。先ほど、野田先生と天神先生が同じ目的のもとでディスカッションしていたという話がありましたが、同じ目的のもとでディスカッションをするということが私も一番大事だと感じております。今後私たちもそうあれるように運営を進めていきたい所存です、ありがとうございました。

集合写真

日本婦人科腫瘍学会のこれまでの歩みはこちらのページでご紹介しています。

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