学会概要

理事長挨拶

公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 理事長

 この度、日本婦人科腫瘍学会の理事長を拝命するにあたり、一言ご挨拶申し上げます。

 本学会の歴史は、1975年8月に栗原操寿先生、天神美夫先生、野田起一郎先生(現名誉会長)によって設立された日本コルポスコピー研究会に遡ります。その後、複数の学会・研究会によって担われていた婦人科腫瘍学を網羅・集約する必要性が高まり、日本婦人科病理・コルポスコピー学会と日本卵巣腫瘍病理研究会が合併し、1998年に特定非営利活動法人(NPO)日本婦人科腫瘍学会となりました。さらに、2013年に公益社団法人日本婦人科腫瘍学会となり現在に至っています。会員は現在4,128名で、婦人科腫瘍分野の産婦人科医だけでなく、広く病理診断医や放射線治療医も在籍しています。

 国立がん情報センターのがん登録データベースで、2017年の本邦の女性における部位別浸潤がん罹患数をみると、子宮体部、卵巣、子宮頸部の3つの部位で41,081例であり、全女性の新規がん罹患総数の1割を占めています。本学会は、これらの婦人科がんの予防、診断、治療に関する方針の策定、教育、研究などの事業を担っています。また、この領域の医学の進歩と発展に努め、さらに、国民の医療福祉の一翼を担うという社会的に必要性が極めて高い学会へと成長して参りました。

治療ガイドラインの作成

 2004年、がんに関わる他の領域に先駆けて卵巣がんの治療ガイドラインを刊行し、その後、子宮頸癌、子宮体がん、さらには世界で初めての外陰癌・腟癌の治療ガイドラインを発刊致しました。これらのガイドラインは、婦人科がん治療の均てん化、患者と医療者間での共通認識の醸成、チーム医療の充実、若手医師の育成に大きく寄与して参りました。本学会の治療ガイドラインは、日本癌治療学会ガイドライン評価委員会で総合得点が7点満点中6点と高い評価を受けています。これらは全て英語版が出版され、NCCNやESMOのガイドラインと並んで多くの論文に引用されています。さらに、ASCO子宮頸癌ガイドラインでは、世界で参考ガイドラインとされる質の高い5つのガイドラインの一つにも選出されています。

婦人科腫瘍専門医の認定

 婦人科がんの診療に携わる専門医の教育・修練のために「婦人科腫瘍専門医」を認定しています。本学会が定めた指定修練施設は241施設で、これまでに認定された専門医は970名になりました。婦人科腫瘍専門医は厚生労働省の「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名」となっています。専門医の養成の結果、例えば子宮頸癌では、専門医が在籍する指定修練施設での治療成績は、非修練施設と比べて有意に良好であることが明らかとなっており(J Gynecol Oncol 2018;29(2):e23)、本邦の婦人科がん治療の向上に貢献し、その結果として患者ががん治癒後に活躍できる社会の実現へと繋がっています。

会員の婦人科がん教育の推進と若手研究者の育成

 年に2回開催する教育セミナーと研修会は、婦人科腫瘍学にとどまらず、医療安全、医療倫理そして感染症対策などを含み、会員の幅広い知識習得に資することを目的としています。また、新たな医療技術の臨床導入を安全かつ迅速に患者に届けられるように、さまざまな普及・啓発、教育活動を行っています。実例として、婦人科悪性腫瘍に対する安全かつ適切な悪性腫瘍鏡視下手術の導入を志向して、共通カリキュラムのもと、全国各地域においてハンズオンセミナーを実施しています。一方、若手の婦人科腫瘍研究者(基礎・臨床・社会医学)に対して、毎年2名に「野澤記念研究助成金」による研究助成を行い、次世代の研究者を育成しています。

国際化と英文機関誌

 本学会はUICCのメンバー組織であるとともに、IGCS、IFCCP、ASGOなどの国際学会の加盟組織として、積極的な国際連携を行って参りました。その結果、2017年11月にはASGOと共催で国際学会(青木大輔会長)を主宰し、2018年9月にはIGCSと共同で国際学会(小西郁生会長)を開催致しました。2019年には、和文機関紙に加え、Journal of Gynecologic Oncology(ISSN 2689-9396, インパクトファクター 3.30)が本会公式の英文雑誌となりました。

女性のライフステージに応じた婦人科がんの予防・治療の社会への発信

 2018年に閣議決定された第3期がん対策基本計画には「AYA世代がん医療の充実」が盛り込まれています。子宮頸部はAYA世代がんの部位別内訳(がんの統計19)で女性のがんの約18%(上皮内癌を除く)を占め、この世代の代表的ながんの発生部位のひとつです。一方、遺伝性乳癌卵巣癌、リンチ症候群やポイツ・イェガース症候群に代表されるように、婦人科がんに関わる遺伝性がんも多くみられます。これらの治療成績は、本邦の少子少産化対策やがんとの共生(第3期がん対策基本計画)とも連動してきます。HPVワクチンについての考え方、ゲノム診療やコンパニオン診断など、婦人科がんに対する新たな診療方針に関わる事柄について、本学会の会員や施設だけではなく、国民に対しても広く声明や提言を発信しています。最近では、HPVの9価ワクチン、MSI検査とペンブロリズマブ、BRCA検査とオラパリブ、産婦人科診療における遺伝性乳癌卵巣癌に対する保険診療の考え方などについても発信しました。加えて、2010年に発刊した「患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン」を2015年に第2版として改訂し、患者や家族の婦人科がんに関する理解促進に寄与しています。また、学術集会では一般市民を対象とした公開講座を開催しています。

 本学会は創設から10代にわたる歴代の理事長の強いリーダーシップの下で礎が築かれ、多くの事例がレールの上に乗って円滑に運営されるまでに成熟致しました。その中でこれからの2年間、さらに力を注ぐことが求められているものとして、若い会員の実践教育、公益性に立った社会への発信、国際連携とインターンシップの3つが挙げられます。また、財政基盤の確保、関連学会との協力・調整、病理診断医や放射線治療医のさらなる加入、IT社会における学術講演会の様式、和文誌の方向性、新たな手技や技術の保険適応、サブスペシャルティ領域専門医制度などの具体的な喫緊の案件もあります。本学会に設置されている11の委員会が独自性を発揮し、且つ相互連携をはかりながら、新たな課題や問題を解決して参ります。

 私たちは今、COVID-19感染症のパンデミックの渦中にあり、終息がまだみえない中で、「ウィズコロナ時代」・「ポストコロナ時代」に即応することが求められています。そのひとつが遠隔情報技術を駆使した会議、授業や講演会です。競争社会に根ざしてきた世界の価値観が今後大きく変化することが予想されます。医師であり明治・大正期の政治家であった後藤新平が、「金を残して死ぬ者は下、仕事を残して死ぬ者は中、人を残して死ぬ者は上」の言葉を残しています。後藤は、関東大震災という未曾有の国難の中で復興計画を立案し推進したその人です。本学会も、この難局の中で、日本の今後の婦人科腫瘍学を背負っていく若い世代の臨床医と研究者が育っていく環境をさらに強固にしていくことが最大の務めと心得ております。会員の皆様のご支援、ご協力を頂きますようお願い申し上げます。

2020年8月

公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会
理事長 片渕秀隆

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