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卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方

日本婦人科腫瘍学会 片渕秀隆
がんゲノム医療、HBOC診療の適正化に関するワーキンググループ
委員長 青木大輔

はじめに

2020年4月6日改定の「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方 https://jsgo.or.jp/opinion/02.html」に続き、今回、ゲノム不安定性(genomic instability status) 及び腫瘍におけるBRCA1 及び BRCA2(tBRCA)*1の状態に基づく相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方について取りまとめた。

欧米ではこれまで、プラチナ製剤感受性再発卵巣癌の維持療法に対しては、BRCA1 及び BRCA2 (BRCA)病的バリアント(変異)*2の有無にかかわらずPARP阻害薬オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブの適応が認められている。わが国においては、オラパリブ(リムパーザ®錠)がプラチナ製剤感受性再発卵巣癌に対する維持療法として2018年1月に承認され、その後BRCA病的バリアント陽性、およびtBRCA病的バリアント陽性の卵巣癌患者に対して、初回化学療法後の維持療法として適応拡大がされている。また2020年12月に相同組換え修復欠損を有する卵巣癌におけるベバシズマブ(遺伝子組換え)を含む初回化学療法後の維持療法として承認された。
ニラパリブ(ゼジューラ®カプセル)は、2020年9月に卵巣癌における初回化学療法後の維持療法、プラチナ製剤感受性の再発卵巣癌における化学療法後の維持療法、プラチナ製剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌の治療薬として本邦で承認された。
相同組換え修復欠損を有する卵巣癌におけるベバシズマブ(遺伝子組換え)を含む初回化学療法後の維持療法としてオラパリブを考慮する場合、または再発卵巣癌の治療としてニラパリブを考慮する場合には、その適応を判断するため、コンパニオン診断としてHRD検査が必要となる。

卵巣癌の診療現場において、特に保険診療としての myChoice 診断システムによるHRD検査の実施を見据え「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方」を取りまとめた。会員諸氏におかれては, myChoice 診断システムによるHRD検査を実施するに際して、ここに示す内容を十分に勘案されたい。

I.HRD検査について

まずHRDとは、DNA修復機構の一つである相同組換え修復に異常がある状態のことを表し、卵巣癌を始めとする多くの癌で見られる特徴の一つである。BRCA1/2遺伝子は相同組換え修復機構に関与しており、BRCA1/2病的バリアントはHRDを引き起こす。それ以外にもHRDは様々な原因で起こるとされている。またHRDはゲノムの不安定性を引き起こすことが知られている。
HRDは卵巣癌におけるPARP阻害薬投与後のPFS延長に関連する因子であることが示されている(Heo et al., 2018, Ray-Coquard et al., 2019, Gonzalez-Martin et al., 2019, Coleman et al., 2019)。またトリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer:TNBC)における化学療法感受性の予測因子及び予後因子としてのHRDの重要性が示されている(Belli et al., 2019)。
HRDの検査方法にはいくつかのものがあるが、2021年1月現在で、コンパニオン診断として製造販売承認されているものとして、tBRCAの病的バリアントの有無に加えて、ヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity:LOH)、テロメアアレルの不均衡(telomeric allelic imbalance : TAI)、及び大規模な状態遷移(large-scale state transition:LST)に関連する3つのゲノム不安定性によって評価されるmyChoice 診断システムによるHRD検査がある。myChoice 診断システムは、次世代シーケンシングベースの検査であり、腫瘍組織における tBRCA病的バリアントを検出・分類し、さらにゲノム不安定性を加味して、総合的に卵巣癌のHRDの有無を判定する。
myChoice 診断システムは、腫瘍組織を用いた検査であるが、生殖細胞系列病的バリアントを反映している可能性を想定し、本システムにおけるBRCA遺伝子病的バリアント陽性者に対しての対応や、腫瘍組織のBRCA (tBRCA)・生殖細胞系列由来のBRCA (gBRCA)・体細胞由来のBRCA (sBRCA) *1の違いを理解しておく必要がある。この点については、IV. 腫瘍組織における遺伝子検査について、で後述する。

Ⅱ. myChoice 診断システムによるHRD検査の実施における主治医の役割

myChoice 診断システムによるHRD検査の実施は,主治医が患者に対してその検査の意義や限界について十分な説明を行う
卵巣癌の治療に従事し、myChoice 診断システムによるHRD検査を実施する可能性のある医師は、生殖細胞系列バリアントの同定につながる可能性を想定し、「遺伝性乳癌卵巣癌症候群診療の手引き」*3等を熟読し、各種関連学会や関連団体の主催するセミナーや講演会など*4に参加することが望まれる。

解説

myChoice 診断システムでは、ゲノム不安定性及びtBRCAの病的バリアントの有無によってHRDであるかどうかを評価するため、腫瘍組織によるBRCA遺伝子検査を含む。ただしmyChoice診断システムは腫瘍組織を対象とした遺伝子検査であることから、BRCA遺伝子のバリアントが生殖細胞系列(gBRCA)か体細胞由来(sBRCA)かの区別はできない。しかしながら、卵巣癌症例でmyChoice 診断システムにおいてtBRCAの病的バリアントが認められた時には、gBRCA病的バリアントの可能性が高いことより、遺伝学的検査としてgBRCAの検査(BRCA1/2遺伝子検査(SRL社)等)ができる機会を担保しておくよう配慮しておくことが求められる。

Ⅲ.コンパニオン診断としてのmyChoice診断システムによるHRD検査を実施する施設基準について

前述のとおり、本検査は卵巣癌の治療法決定に影響する検査であることから、やはり卵巣癌患者を担当する主治医が本検査の事前の説明と同意・了解の確認を行うことが適切と考えられる。主治医が、tBRCAとgBRCAとの関連性を理解するとともに、PARP阻害薬の有効性、安全性を十分理解したうえで実施することが求められる。ただし、本検査によりtBRCAの検査結果が陽性と判定された場合、BRCA遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを有する可能性があり、生殖細胞系列の遺伝学的検査を行うことによって確定診断が必要になることから、① BRCA1/2遺伝学的検査を行うことのできる施設、もしくは② BRCA1/2遺伝学的検査を行うことのできる施設と連携体制を構築している施設で行われる必要がある。

BRCA1/2遺伝学的検査を行うことのできる施設については、「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方 https://jsgo.or.jp/opinion/02.html」に記載されている施設基準を下記に示す。

卵巣癌患者のBRCA遺伝子バリアントの検査は、婦人科腫瘍専門医、がん薬物療法専門医、または十分な卵巣癌の薬物療法の経験を有する産婦人科医が所属する施設で行う。
gBRCA陽性患者ならびにその家族の遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー等が所属する施設で行う。
①②を同時に満たすことが望ましいが、満たさない場合には、遺伝カウンセリング体制の国内状況を考慮して、①の施設は ②の施設との連携のもとで検査を実施することを可とする。

IV.腫瘍組織における遺伝子検査について

卵巣癌患者においてPARP阻害薬は、腫瘍組織由来のtBRCA病的バリアントが陽性であれば、生殖細胞系列由来(gBRCA)か体細胞由来(sBRCA)かによらず、その効果が期待される。本邦における卵巣癌Ⅲ, IV期のgBRCA病的バリアント陽性率は24.1%と報告されている。一方、sBRCA病的バリアント陽性率(gBRCAは陰性)は5~7%前後と報告されている。すなわち、卵巣癌Ⅲ, IV期の腫瘍組織におけるtBRCA病的バリアント陽性率(gBRCA, sBRCA 双方を含む)は全体で約30%と見込まれる。前述した通り、myChoice 診断システムに含まれるBRCA遺伝子検査は、tBRCAの遺伝子検査であるため、BRCA1またはBRCA2遺伝子のバリアントが生殖細胞系列由来か体細胞由来かの区別はできない。しかしながら、卵巣癌症例でmyChoice 診断システムにおいてtBRCA病的バリアントが認められた時には、gBRCA病的バリアントが同定される可能性が高いことより、遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を適切に提供できるようにしておく必要がある。その場合の対応については、日本医療研究開発機構(AMED)のゲノム創薬基盤推進研究事業 A‐②(研究代表者:京都大学 小杉眞司)で作成された 「ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言―その1:がん遺伝子パネル検査を中心に(改定第2版)」*5に掲載されているので参照されたい。
また、BRACAnalysis診断システム(gBRCAバリアントの評価)によるコンパニオン診断を受けた卵巣癌患者において、gBRCA病的バリアントが陰性であっても、myChoice 診断システムによるHRD検査でsBRCA病的バリアントが明らかとなる場合があることより、生殖細胞系列バリアントと体細胞バリアントとを区別して説明しておくことが必要である。
なおHRDを引き起こす遺伝子はBRCA1/2以外にもRAD51C, RAD51Dなどがあり、それらHRD関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアント保持者では、卵巣癌をはじめとした癌発症リスクが高いことにも留意する必要がある。

おわりに

癌薬物療法では標準治療と呼ばれる薬剤の選択と使い方はあっても,その効果は個人差が大きい。一方、いくつかの癌分子標的薬ではコンパニオン診断の結果に基づいて薬剤が選択される。BRCAの病的バリアントやHRDがバイオマーカーとしての意義を有するPARP阻害薬も個別化医療の一躍を担うものと考えることができる。なおHRD検査は、今後複数のPARP阻害薬のコンパニオン診断として用いられると見込まれており、検査のタイミングについては薬剤、及び患者の状況毎に異なると考えられる。ただし保険上は患者1人につき1回に限り算定できることに注意が必要である。婦人科腫瘍領域では今後も癌細胞あるいは生殖細胞系列の各種DNA解析が臨床応用されると考えられるので、現時点から臨床遺伝学についても精通しておく必要がある。


*1 BRCA1/2 (BRCA)遺伝子に関する用語について解説する。腫瘍で検出されたBRCA病的バリアントについて言及する場合は腫瘍細胞のBRCA病的バリアントを示すtBRCA (tumor BRCA)を用いる。生殖細胞系列のBRCA病的バリアントについて言及する場合はgBRCA (germline BRCA)を用いる。腫瘍細胞にBRCA病的バリアントを有し、gBRCA病的バリアントがない場合については、体細胞にBRCA病的バリアントがあることを示すsBRCA (somatic BRCA)を用いる。

*2 最近では、「変異(mutation)」を「バリアント(variant)」と表記することが多くなっており、ここでは「バリアント」に統一した記載とした。ただし「バリアント」には遺伝子多型やVUSも含まれるため、「変異」を意味する場合には「病的バリアント」と表記する必要がある。参考までにMyriad CDx(Companion diagnostics)とACMG(米国臨床遺伝・ゲノム学会)での用語の使い方を下記表に示す。

Myriad CDx Classification ACMG Classification
Variants Mutations (as defined by Myriad) Deleterious Pathogenic
Suspected Deleterious Likely Pathogenic
Not Mutations (as defined by Myriad) Variant of Uncertain Significance (VUS) Uncertain Significance
Favor Polymorphism Likely Benign
Polymorphism Benign

*3 「遺伝性乳癌卵巣癌症候群診療の手引き」2017年版 金原出版 (2017年10月刊行) http://johboc.jp/guidebook2017/

*4 現在、HBOC等に関するセミナーや講演会などは、以下の各種関連学会や関連団体が主催している。

<関連学会・団体>

日本婦人科腫瘍学会 https://www.jsgo.or.jp/

日本産科婦人科学会 http://www.jsog.or.jp/

日本産科婦人科遺伝診療学会 http://jsgog3.umin.jp/

日本人類遺伝学会 http://jshg.jp/

日本遺伝カウンセリング学会 http://www.jsgc.jp/

日本遺伝性腫瘍学会 http://jsht.umin.jp/

日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 http://johboc.jp/

日本臨床腫瘍学会 http://www.jsmo.or.jp/

*5 「ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言―その1:がん遺伝子パネル検査を中心に(改定第2版)」 日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム創薬基盤推進研究事業 A‐② :ゲノム情報患者還元課題―患者やその家族等に対して必要とされる説明事項や留意事項を明確化する課題「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」(研究代表者:京都大学 小杉眞司)https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200121.html

がんゲノム医療、HBOC診療の適正化に関するワーキンググループ
委員長 青木大輔

委員 榎本隆之 岡本愛光 織田克利
竹原和宏 津田 均 永瀬 智
平沢 晃 万代昌紀 三上幹男
八重樫伸生 渡部 洋

2020年12月19日

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