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子宮体癌に対するペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩による併用療法(KEYNOTE-775/E7080-309試験)の解説と現時点での考察

令和4年1月24日

日本婦人科腫瘍学会会員各位

日本婦人科腫瘍学会理事長
片渕 秀隆
ガイドライン委員会
委員長 永瀬 智
子宮体癌に対するペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩の適正使用に関する検討WG
委員長 鈴木 直

日本婦人科腫瘍学会では、子宮体癌に対するペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩の効能・効果追加と使用上の注意点を、令和4年1月11日に学会ホームページ上でお知らせいたしました。
ペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩併用療法を適切に使用するためには、基盤となった臨床試験(KEYNOTE-775試験)を正しく理解していただく必要があると判断しました。臨床試験の概要と結果および現時点での考察をまとめましたので、原著論文(DOI: 10.1056/NEJMoa2108330)と合わせ、投与検討の参考資料にしていただければと思います。

1.KEYNOTE-775試験の解説

  1. 対象:治癒不能な子宮体癌でプラチナ併用化学療法を1または2レジメン投与された患者
  2. 方法
    1. ①試験デザイン:オープンラベルランダム化試験。試験治療はレンバチニブ(LEN)20mg経口1日1回+ペムブロリズマブ(pem)200mg点滴3週毎(最長35回)。標準治療はドキソルビシン60mg/m2 3週毎(最大500mg/m2)またはパクリタキセル80mg/m2毎週(3投1休)のどちらか主治医が事前選択したもの(TPC)。
    2. ②主要評価項目:独立評価委員会が評価したPFS及びOS
    3. ③層別化因子:MMRステータス(pMMRまたはdMMR)と、pMMRでは領域(欧米加豪新以またはその他)、PS(0または1)、骨盤照射の既往(ありまたはなし)
    4. ④解析:pMMR集団でのPFSが最初に検定され、有意な時のみ全体集団でのPFS、それも有意な時のみpMMR集団でのOSが検定される計画であった。更にそれも有意な場合、全体集団のOSとpMMR集団のORRとを、αを9:1に分割して検定し後者が有意な場合のみ全体集団のORRも検定することとされた。1回目の中間解析はPFSの最終解析かつOSの1回目の中間解析を兼ねており、6ヶ月以上フォローされかつpMMR集団で368以上のOSイベントが生じた時に予定された。
  3. 結果
    1. ①有効性
      827名が登録され、LEN+pem(Lp)群)に411名、TPC群に416名が割り付けられた。患者背景は年齢中央値が約65歳、pMMRが約85%、白人が約60%、PS0が約60%、骨盤照射の既往ありが約40%、類内膜癌が約60%、プラチナの前レジメン数1が約75%と両群でバランスが取れていた。フォローアップ期間中央値11.4ヶ月の時点で、pMMR集団に368のOSイベントが観察された。主要評価項目であるpMMR集団でのPFSは中央値で6.6 vs 3.8ヶ月(HR=0.6, p<0.0001)、全体集団でのPFSも中央値で7.2 vs 3.8ヶ月(HR=0.56, p<0.0001)といずれもLp群で有意差が見られた。年齢、人種、領域、MMRステータス、PS、骨盤照射の既往、組織型、前治療のレジメン数などのサブ解析で一貫してLp群が良好であった。pMMR集団のOS(中央値17.4 vs 12.0ヶ月; HR=0.68, p=0.0001)も全体集団のOS(中央値18.3 vs 11.4ヶ月; HR=0.62, P<0.0001)もLp群で有意差が見られた。上述と同じサブ解析がOSにも施行され、一貫してLp群が良好であった。奏効割合はpMMR集団で30.3 vs 15.1%(p<0.0001)、全体集団で31.9 vs 14.7%といずれもLp群で有意差が見られた。
    2. ②安全性とQOL
      両群とも99%の患者で治療関連有害事象(TEAE)が見られ、Lp群の約90%、TPC群の約70%でG3以上のTEAEが見られた。減量/中断/中止に繋がるTEAEはそれぞれ66.5 vs 12.9%、69.2 vs 27.1%、33 vs 8%とLp群で多かった。Lp群の個別のTEAEについて、頻度が多いものとしては順に高血圧(64%)、甲状腺機能低下(57%)、下痢(54%)、嘔気(50%)、食思不振(45%)、嘔吐(37%)、体重減少(34%)、倦怠感(33%)、関節痛(31%)、蛋白尿(29%)、貧血(26%)、便秘(26%)、尿路感染(26%)、頭痛(25%)、無力症(24%)などが挙げられる。なかでもG3以上のものとしては高血圧(38%)、体重減少(10%)、食思不振(8%)、下痢(8%)、貧血(6%)、蛋白尿(6%)、無力症(6%)、倦怠感(5%)等が挙げられる。以上の結果が2021年のSGOで報告されたが、本稿原案作成時点(2022年1月8日)ではKeynote775試験の論文は未発表である。(注:その後2022年1月19日、NEJMで論文が発表された)
      QOLについて、QLQ-C30、QLQ-EN24、EQ-5D-5Lなどの尺度を用いて評価した結果が2021年のASCOで報告されたが、両群で大きな差は見られなかった。
    3. ③日本人集団の解析
      日本人が104名登録されており、そのサブ解析が2021年の婦人科腫瘍学会で報告された。PFS 中央値がpMMR集団でLp群5.6 vsTPC群 5.6ヶ月(以下日本人集団での有効性データの比較は全てLp群vsTPC群の順)、全体集団で7.2 vs 5.4ヶ月、OS中央値がpMMR集団16.7 vs 12.2ヶ月、全体集団でNE* vs 12.0ヶ月、ORRがpMMR集団31.8 vs 29.8%、全体集団で36.5 vs 26.9%という結果であった。
      日本人集団でのLp群の安全性について、G3以上のTEAEは約90%に見られた。減量/中断/中止に繋がるTEAEはそれぞれ82.7/63.5/36.5%に見られた。個別のTEAEについて、頻度が多いものとしては順に高血圧(79%)、甲状腺機能低下(75%)、蛋白尿(64%)、嘔気(48%)、血小板減少(48%)、下痢(46%)、食思不振(46%)、手足症候群(46%)、口内炎(42%)、貧血(42%)、発熱(39%)、倦怠感(39%)、嘔吐(37%)、体重減少(29%)、筋肉痛(27%)、関節痛(25%)、頭痛(25%)、ALT上昇(25%)、好中球減少(23%)、白血球減少(17%)、脱毛(12%)が挙げられる。なかでもG3以上が5%以上の頻度で観察されたTEAEとしては高血圧(31%)、蛋白尿(17%)、体重減少(14%)、貧血(14%)、血小板減少(12%)、好中球減少(12%)、下痢(10%)、白血球減少(8%)、ALT上昇(6%)が挙げられる。
      *NE: not estimated

2.現時点での考察

試験全体では、事前に設定された評価項目(pMMR集団並びに全体集団でのPFS, OS, ORR)の全てでLp群がTPC群を上回った。TEAEは多彩だが適切な患者選択を行い、有害事象を適切に評価して、必要に応じて他科コンサルトも行いつつ減量/中断/中止などすることで管理可能である。但し免疫チェックポイント阻害薬を用いている治療として考えると今回の発表の評価期間はまだ短く、今後有効性(どの程度の患者が無増悪を保ち、PFSのKM曲線の後半が平坦化するいわゆる”tail plateau”が観察されるか)及び安全性(有害事象のプロファイルは追跡期間が延びると変化する可能性がある)の両面で更なる観察が必要である。
日本人集団でのサブ解析では総じて標準治療群の治療成績がグローバル集団より良い傾向があり、一つの可能性として日本人集団の患者背景にグローバル集団より若干良い傾向が見られた(PS=0が約80%、類内膜癌が約75%)影響が考え得る。血小板減少、手足症候群、口内炎、発熱、ALT上昇など幾つかのTEAEは日本人集団で特徴的に見られており、患者選択や投与管理において留意すべきと考えられた。
「子宮体がん治療ガイドライン2018年版」のCQ28で、再発症例に対してAP療法、TC療法、単剤投与が推奨(グレードC1)されているが、一般臨床では2剤併療法を行う場合が多いと思われる。しかし、本試験では標準治療はドキソルビシンまたはパクリタキセルのどちらかの単剤療法が設定されていることから、その違いについての考慮が必要である。さらに、本邦では術後補助療法で放射線治療を採用することが少ない点も欧米との比較では考慮すべき点と思われる。

ガイドライン委員会
委員長 永瀬智
委員 武隈宗孝 松本光史

子宮体癌に対するペムブロリズマブとレンバチニブメシル酸塩の適正使用に関する検討WG
委員長 鈴木直
委員 片渕秀隆 三上幹男 岡本愛光 小林陽一 永瀬智 万代昌紀
島田宗昭 岩田卓 本原剛志 野上侑哉 大原樹

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